2017年1月20日金曜日

失語症と吃音の障害者手帳格差について考える 失語と吃音の当事者団体などは協力したほうがいいのでは? 吃音は失語症よりもとても有利な現状

みなさんは失語症をご存知ですか?

失語症は高次脳機能障害の1つとされています。(高次脳機能障害と失語症は別だという情報もあります)

慶應義塾大学病院医療・健康情報サイトによるとこのようになっています。失語症の説明も含まれています。
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000269.html

私たちは、朝起きて特に手順など何も考えずに着替えを行い、いつもと同じ道順で職場に行き、様々な仕事で周りの人たちと会話を行い、仕事の計画を立て、それを実行するといったことを行っています。これらは意識して行うこともありますが、こっちの手を通して次に頭を通してなどと着替える順序を考えることは普通しませんし、いつも通っている道を次は右に曲がってその次の信号を左に・・・と考えることもしません。これらの動作は頭の中で無意識の思考として蓄積され必要に応じて適切に引き出されているのです。
高次脳機能では、これらの頭の中での思考過程・記憶・注意能力などが傷害されることにより様々な障害を呈します。高次脳機能障害は脳に傷を受ける病気・怪我であればすべてに起こる可能性があります。その中でも比較的多く見られるのは脳卒中や脳腫瘍、頭部外傷、低酸素脳症、パーキンソン病、神経の変性疾患などです。
高次脳機能障害は大脳の知的活動をつかさどる部分での障害であり、様々な症状の総称です。そのため、言葉や物事認識・理解力の低下などが起こります。ここで比較的遭遇しやすい症状について説明します(図1)。


原因は交通事故や脳卒中などにより、脳に損傷を受けることです。さまざまな症状があらわれます。

国立障害者リハビリテーションセンターの高次脳機能障害情報・支援センターによるとこのようなものが説明されています。

http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/
記憶障害
・物の置き場所を忘れる。
・新しいできごとを覚えられない。
・同じことを繰り返し質問する。
注意障害
・ぼんやりしていて、ミスが多い。
・ふたつのことを同時に行うと混乱する。
・作業を長く続けられない。
遂行機能障害
・自分で計画を立ててものごとを実行することができない。
・人に指示してもらわないと何もできない。
・約束の時間に間に合わない。
社会的行動障害
・興奮する、暴力を振るう。
・思い通りにならないと、大声を出す。
・自己中心的になる。
これらの症状により、日常生活または社会生活に制約がある状態が高次脳機能障害です。


■さて、今回の記事では失語症は身体障害者手帳の対象、吃音は発達障害として精神障害者保健福祉手帳の対象・場合によっては身体障害者手帳も可能? という問題を考えます。


筆者がこの記事を書こうと思ったキッカケは2016年9月11日に東京都言語聴覚士会が主催開催した言語聴覚の日2016での講演を聞いたことです。 場所は東京の北里大学白金キャンパスでした。

この講演では前半を吃音当事者でありながら言語聴覚士をしている方の話
 講演1( 13時40分~14時30分) (50分)
    「吃音のある言語聴覚士 ~この道を選んだ理由~」
     王子生協病院     本田 裕治 妻 本田愛美
     老健ほくとはなみずき 小林 祐貴

後半は失語症当事者の話でした。
 講演2( 15時00分~15時50分) (50分)
 「失語症になって」            
     丸山 奈津子
         NPO法人和音 田村洋子
     現東邦大学医療センター大森病院 原田紗衣

詳細はコチラのリンクを  (2017年1月20日閲覧)
http://st-toshikai.org/archives/4059

 NPO法人 言語障害者の社会参加を支援するパートナーの会 和音
https://npowaon.jimdo.com/


前半の吃音当事者が言語聴覚士をしている話は、吃音業界で有名な話で、この方以外にも吃音当事者で言語聴覚士という方はそれなりに存在しています。

後半の話が筆者にとって、衝撃でした。


■失語症当事者が泣きながら訴える話 
失語症当事者は話す時に頭で思ったことと口から発話するときに、「意図したことを話せていない、文字を間違えて発音している」のかな?と印象を持ちました。正式に失語症の中のXXXXという症状です。とは説明はなかったように思えます。(記憶が古くなっているので申し訳ありません)


当事者の方は失語症になって生活で困っていること、働くことの大変さ、障害者手帳が取得できないこと(イコール 障害者枠で働けない)、家族が支えてくれること、もっと失語症を知ってほしい

などを話していました。とくに後半は当事者の方が感情が高まり涙を流しながら話をしており本当に大変な状況であることが伝わってきました。(吃音当事者はこういったことはあまりありません。吃音はありのままに吃音を受け入れて社会的に成功する人が美談であるとされることが非常に多いためです。障害者手帳取得も吃音からの逃げだと評価する人もいます)



■??? 失語症は障害者手帳を取れないの?
この部分が筆者が「???」となった部分です。
今回、講演をした失語症当事者の話し方は吃音とは具体的に異なりますが、吃音者である筆者から見ると軽度吃音の人が吃っているくらいの感覚で受け止めました。もちろん、失語症当事者でしかわからない苦しみや悩みがその背景にあると思います。


障害者手帳を取得できないというのが筆者はオカシイと思いました。
なぜなら、吃音の場合は発達障害者支援法に定義されているため、精神障害者保健福祉手帳3級から取得できるわけです。厚生労働省も軽度吃音であっても精神障害者保健福祉手帳は取得できると説明をはじめています。

2016年10月22日吃音啓発の日にて厚生労働省の日詰正文発達障害対策専門官の講演
http://kitsuonkenkyuguideline.blogspot.jp/2016/10/20161022.html

吃音は現在、身体障害者手帳4級を「吃音」と明記せずに診断書を書けば通る可能性があるということです。それ以外は日本国内においては、吃音は発達障害者支援法に含まれているため、基本的に2005年以降はその法律に従い、吃音は発達障害として精神障害者保健福祉手帳の対象となっているということになります。


吃音は身体障害者手帳も精神障害者保健福祉手帳も両方可能性があるということになります。


■では失語症はどうなのか?
国立障害者リハビリテーションセンターの高次脳機能障害情報・支援センターのホームページを見るとこのように書かれています。
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/seido/

障害者手帳
 障害者手帳を所持することで、各種税金や公共料金等の控除や減免、公営住宅入居の優遇、障害者法定雇用率適用等のサービスを受けられます。また、障害福祉サービスを利用することもできます。サービスの対象者や内容は、自治体により異なることがありますので、お住まいの市区町村の福祉担当窓口にお問い合わせ下さい。
 なお、身体症状と精神症状を併せ持つ場合には、2種類以上の障害者手帳を申請することができます。
精神障害者保健福祉手帳
 高次脳機能障害によって日常生活や社会生活に制約があると診断されれば「器質性精神障害」として、精神障害者保健福祉手帳の申請対象になります。申請時に必要な診断書を記載するのは、精神科医である必要はなく、リハビリテーション医や神経内科医、脳神経外科医等も可能です。高次脳機能障害の主要症状と日常生活への影響や困っている点について具体的に記載してあることが重要です。診断書は初診日から6か月以上を経てから作成してもらい、作成日から3か月以内に申請する必要があります。
診断書記入例(高次脳機能障害) (PDF:246KB)
身体障害者手帳
 手足の麻痺や音声・言語障害があり、厚生労働省の定めた身体障害者程度等級表に該当する場合に、身体障害者手帳の申請対象となります。詳細はお住まいの市区町村の福祉担当窓口にお問い合わせ下さい。



そうなのです。
厚生労働省管轄の国立障害者リハビリテーションセンターの高次脳機能障害を扱うページがこのように。 【身体障害者手帳
 手足の麻痺や音声・言語障害があり、厚生労働省の定めた身体障害者程度等級表に該当する場合に、身体障害者手帳の申請対象となります。詳細はお住まいの市区町村の福祉担当窓口にお問い合わせ下さい。】

と明記しているのです。日本国内法では高次脳機能障害による失語症、音声・言語障害は身体障害者手帳の等級表に該当すれば貰える可能性がある。というのです。


身体障害者手帳の音声・言語障害といえば4級と3級がありますが。
4級は吃音の場合「家族しか会話内容が理解できない」とされていますよね。
3級は「発話する器官を喪失」のレベルとされています。
失語症も、ある程度、発話ができていると取得できないことになります。

吃音の場合は身体障害者手帳よりも精神障害者保健福祉手帳を申請できるので、その分格差があることになります。一般に言われる発達障害である自閉症スペクトラムやADHDやLDやチック・トゥレットなどがあります。この当事者の中には精神障害者保健福祉手帳3級を持っているが、障害者枠で就職せず、就職先に発達障害者であること隠して、いわゆるクローズド就職をしている人もいます。困っていることはあるが、いろいろな努力や訓練、服薬などを駆使して働いているが、いざという時のために精神障害者保健福祉手帳を持っている、または仕事中はなんとか定型発達者を装えるが、それ以外では体力(HP ヒットポイント)を使い切ってしまい生活が困難などの人もいるでしょう。

吃音の場合も、訓練や努力、処世術、キャラ設定、演じるなどの方法により吃音があまり人前ででないようになっていたとしても、やはり吃音が出るときはでるのであるから、精神障害者保健福祉手帳3級程度は取得できることになります。


しかし失語症だと、身体障害者手帳で申請しましょうというガイドラインが国立障害者リハビリテーションセンターのホームページ内に書かれているのですから、精神障害者保健福祉手帳を取得できません。


とんでもない格差です。

■障害者手帳制度、そろそろ全体的な見直しが必要なのではないか?
 吃音当事者団体と失語症当事者団体は協力できないの?


失語症当事者団体はどのような政治運動や厚生労働省に対して働きかけをしているのかはわかりません。失語症を診療する医療従事者もこの格差を論じてほしいと思います。

現実問題として、発達障害者支援法に定義されている発達障害のほうが、軽度でも困っていることがあれば精神障害者保健福祉手帳3級は取得することが容易です。

一方、失語症は身体障害者4級ですから、ハードルがとてもとても高いことになります。


これは障害者の権利に関する条約に抵触するのではないかと思います。
障害者手帳制度の中で、失語症当事者と吃音当事者が日本国内で利用できる社会保障制度に格差が存在しているのです。

障害者枠で働きたい→身体障害者手帳に該当すればOKだ→失語症では身体障害者手帳取得できないじゃん→えっ?吃音の人は発達障害だから精神障害者保健福祉手帳3級から取得できるって???

これはもっと取り上げられるべきことだと筆者は感じています。
そして立法措置をしてでも、格差はなくすべきだと思うのです。




障害者権利条約の第四条 一般的義務
外務省より
http://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html

1 締約国は、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
(a) この条約において認められる権利の実現のため、全ての適当な立法措置、行政措置その他の措置をとること。
(b) 障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること。
(c) 全ての政策及び計画において障害者の人権の保護及び促進を考慮に入れること。
(d) この条約と両立しないいかなる行為又は慣行も差し控えること。また、公の当局及び機関がこの条約に従って行動することを確保すること。
(e) いかなる個人、団体又は民間企業による障害に基づく差別も撤廃するための全ての適当な措置をとること。

第五条 平等及び無差別

1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。
4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。